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千葉地方裁判所 昭和33年(行)12号 判決

原告 鈴木宣三

被告 千葉県知事

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一原告の申立ならびに主張

原告訴訟代理人は「被告は神戸市葺合区脇浜町三丁目二〇三五番地の一川崎製鉄株式会社が千葉県内に所有する大規模の償却資産につき、同会社に対する昭和三〇年度より昭和三三年度分までの固定資産税の請求権を放棄してはならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一  訴外川崎製鉄株式会社(以下「川鉄」という。)は昭和二五年八月七日設立され、神戸市葺合区脇浜町三丁目二〇三五番地の一に本店を有し、資本金九三億七八七五万円を擁する大会社である。同会社は千葉市川崎町一番地に千葉製鉄所を持つている。右千葉製鉄所は同会社が、その設立当時の昭和二五年以来巨費を投じて建設したものであり、熔鉱炉、平炉、分塊圧延機、火力発電機、薄板改良設備等、製鉄事業に必要な設備一切を有し、従業員は実に一万人を超す。

二  地方税法第七四〇条、第七四一条によれば、大規模の償却資産が所在する市町村を包括する道府県は、当該大規模の償却資産に対し、当該大規模の償却資産の価額のうち、同法第三四九条の四(昭和三〇年八月法律第一一二号による改正前は同法第三四九条の三)の規定によつて当該大規模の償却資産が所在する市町村が課することができる固定資産税の課税標準となるべき金額をこえる部分の金額を課税標準として、固定資産税を課すべきものとし、大規模の償却資産に対して道府県が課する固定資産税の標準税率は一〇〇分の一・四と定められている。しかして同法第三四九条の四第一項によれば、人口三万人以上の市町村は、一の納税義務者が所有する償却資産でその価額の合計額が四億円(当該大規模の償却資産の価額の一〇分の二の額が四億円をこえるときは、当該大規模の償却資産の価額の一〇分の二の額とする。)をこえるものについては四億円(前同)を課税標準として固定資産税を課すものとされているところ、千葉市の人口は三万人以上であり、川鉄の償却資産の価格の一〇分二の額は四億円をこえるのであるから、川鉄に対しては前記大規模償却資産の価額につき、千葉市はその一〇分の二、千葉県はその一〇分の八を、それぞれ課税標準として固定資産税を課すべきものである(昭和二九年五月一三日法律第九五号地方税法の一部を改正する法律附則第三一項=昭和三〇年八月一日法律第一一二号地方税法の一部を改正する法律により附則第三二項となり、昭和三一年四月二四日法律第八一号地方税法の一部を改正する法律により附則第三四項となる=によれば、昭和三〇年度分の固定資産税に限り前記「四億円」は「六億五〇〇〇万円」と読み替えられ、昭和三二年四月一〇日法律第六〇号地方税法の一部を改正する法律により右「四億円」は「六億五〇〇〇万円」と改正されたが、川鉄の償却資産の価額の一〇分の二の額は六億五〇〇〇万円をこえるから、以上の関係は全く同一である。)。

三  元来地方税法第三四九条の四は、市町村と県との大規模償却資産に対する固定資産税の配分を定めた原則規定であり、昭和三二年四月一〇日法律第六〇号をもつて追加された同法第三四九条の五は、右原則規定に対する特例を定めたものである。大規模償却固定資産税は市町村および道府県ともに課税権をもつ他に類例を見ない共通の税種であり、課税権は本源的に市町村または道府県のいずれかにある。しかして地方税法第六条第一項は「地方団体は公益上その他の事由に因り課税を不適当とする場合においては課税をしないことができる。」と規定しており、千葉市は右法条による委任命令として千葉市企業誘致条例(以下千葉市条例という。)を制定し、その第二条第二項で「特別の事情あるものについては地方税法第六条第一項の規定により当該工場に対する固定資産税を課さないことができる。」と定め、右条例にもとづく指定をもつて、川鉄および同じく千葉市内に大規模の償却資産を有する訴外東京電力株式会社に対する一切の固定資産税を免除している。すなわち右条例を適用しない場合は千葉市は地方税法第三四九条の四、第三四九条の五の規定にもとづき大規模償却資産に対する固定資産税を課することができ、千葉県は同法第七四〇条により、右千葉市が課税できる範囲をこえた課税標準額全額に対し課税できるのであるけれども、千葉市は条例にもとづき右課税権を放棄しているのであるから、本件に関する限り相対的に地方税法第三四九条の四、第三四九条の五は排除され、同法条によつて千葉市が課すべき固定資産税に関する課税標準額なるものは零となる。したがつて千葉県は当該大規模償却資産の価額全額に対し課税権をもつこととなる(千葉市がもつ課税権は千葉県に移譲されたと同じ結果となる)のである。

四  地方税法第三四九条の四、第三四九条の五は市町村と道府県との大規模償却資産に対する固定資産税の配分の率を定めた規定であり、被課税者の税の減免を定めた規定でないことは前段主張のとおりであつて、市町村が課税権を放棄すれば、その分が自動的に道府県に移るのは、あたりまえのことであるが、今日これにつき疑義を生ずる議論ある所以のものは、立法技術の拙なるによる。すなわち地方税法の総則に普通税として市町村税と同様(第五条第二項)、道府県税についても(第四条第二項)普通税として大規模償却固定資産税の賦課徴収ができるとの規定があれば、同法第七四〇条、第三四九条の四、第三四九条の五は、いずれもその配分のみの規定であることが明瞭となり、疑義を生じないのであるが、これがないための疑義である。しかし立法の精神から、このように解さなければならないと考える。ことに同法第七四〇条が、その趣旨とするところは、要は市町村がとり得る以外(以上)の部分につき県が課税できるとするものであつて、本件の場合のように条例またはそれにもとづく行政処分で市町村すなわち千葉市がとり得るものがない限り、道府県すなわち千葉県において全額徴収できるのは当然のことである。

地方税法第三四九条の四第一項の表は、償却固定資産税の市町村と道府県との分配の原則規定であり、同条第二項以下および第三四九条の五の規定は、市町村の財政収入額と財政需要額との財政のアンバランスを調整しようとするものである。すなわち赤字財政の市町村には償却固定資産税を例外としてスライド制により多く課税し得る権能を与えた規定である。したがつて赤字が大きくなればなるほど、その市町村のとり得る範囲が拡大するわけである。市町村が条例で課税権を放棄した場合でも、この例外規定を適用して当該市町村がとり得る範囲を可能な限り拡大し、府県のとり得る範囲を縮小すべきものとするならば、企業所有者(納税義務者)は、なるべく赤字財政の市町村に償却固定資産をもつようにすれば、それだけ多く納税義務を免れるという奇観を呈する。このようなことは税法の予期するところでもないし、又国民はひとしく納税の義務を負うとする憲法の精神にももとるものである。本条は市町村の財政充足のために現実に税収を得る場合にかぎり、その上級機関である道府県の収入をすくなくするための規定であることは明らかであるが、仮に市町村が課税権を放棄した場合、その放棄にかかる課税標準額全額につき道府県への移譲が認められないとしても、前記矛盾をなくするためにも地方税法第七四〇条適用の場合、原則規定(同法第三四九条の四第一項の表)のみを適用してこれを差し引き、例外規定(同法第三四九条の四第二項、第三四九条の五)は適用すべき限りでないと考えるのである(なお昭和二九年度から昭和三二年度までの千葉市の基準財政収入額および基準財政需要額が被告主張のとおりであることは争わない。)。

五  しかして川鉄所有の償却資産につき地方税法第四一一条により償却資産課税台帳に登録された課税標準額は、

昭和三〇年度 四一億五五〇五万六〇〇〇円

昭和三一年度 五〇億〇九三六万〇〇〇〇円

昭和三二年度 五六億〇九一〇万五〇〇〇円

昭和三三年度 五九億四〇二九万四〇〇〇円

であるところ、千葉市がこれに対する固定資産税の課税権を放棄しているから、千葉県は、(一)その全額に税率一〇〇分の一・四を乗じた税額、もしくは(二)地方税法第三四九条の四第一項の原則規定により千葉市の課税すべき一〇分の二を控除した残額に税率を乗じた税額

昭和三〇年度 (一) 五八一七万〇七八四円 (二) 四六五三万六六二七円

昭和三一年度     七〇一三万一〇四〇円     五六一〇万四八三二円

昭和三二年度     七八五二万七四七〇円     六二八二万一九七六円

昭和三三年度     八三一六万四一一六円     六六五三万一二九二円

を固定資産税として賦課徴収すべきものであるのに、被告はこれを連年賦課徴収していないのである。もつとも右川鉄の製鉄所は千葉県企業誘致条例に該当する工場であるから、同条例により県税である事業税は一定期間免除しうるのであるが、固定資産税についての減免規定は、どこにもない。

六  租税は公法上の請求権(債権)であり財産権であることは明らかであり、近時の学説、判例は、これを債権(財産)と認めている。最高裁判所昭和三一年四月二四日判決(民事判例集一〇巻四号四一七頁)も、租税は債権であると判示している。また実際の税務署等の取扱いも税金を債権として取り扱つている。債権者代位として滞納者の不動産を代位登記するが如きがこの一例である。被告が川鉄所有の大規模償却資産に対する固定資産税を連年徴収しないのは財産権の放棄にほかならないのであり、被告が地方公共団体千葉県の長として、法規にもとづかず、このような財産権を放棄する権限はない筈である。前記のように、地方税法第六条は「地方団体は公益上その他の事由により課税を不当とする場合においては課税しないことができる。」と規定するが、その「公益」「その他の事由」ということも、地方議会の協賛を経ることを要し、これに関する条例によらなければ、被告がこのことを単独に決定できる筋合ではない。したがつて被告の右所為は地方自治法第二四三条の二第一項所定の「財産の違法処分」にあたるものといわなければならない。

七  原告は千葉県の住民であるところ、昭和三三年三月三一日付をもつて同県監査委員全員に対し、被告の当該違法処分の禁止に関する措置を講ずべきことを請求したが、同年四月一八日付をもつて「地方公共団体の権限からなる地方税の賦課徴収権の如きは地方自治法第二四三条の二の規定にいう財産の範囲には含まれないものと解せられ、したがつて本請求の趣旨に鑑み監査の対象とならないものである。」との理由で却下された。しかしながら右決定は法観念の誤解から出たもので、原告としては承服し難いから、同法条第四項にもとづき被告に対し当該違法処分の禁止に関する裁判を求めるため本訴に及ぶものである。

第二被告の申立ならびに主張

被告指定代理人は、本案前の抗弁として「地方自治法第二四三条の二第一項の規定による『普通地方公共団体の財産の違法もしくは不当な処分』の『財産』とは、物権、債権、無体財産権等金銭的価値のある権利からなる財産権であつて、地方公共団体の地方税の賦課徴収権の如きは、財産権とはいえないものであるから、当該条項によつてした本訴は不適法なものである。」と主張し、更にこれに関して別紙答弁書のとおり述べ、本案につき「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

原告主張の一の事実全部、川鉄の償却資産に対する昭和三〇年度ないし昭和三三年度の課税標準額が原告主張のとおりであること、千葉市の人口が三万人をこえること、千葉市に原告主張のとおりの内容の千葉市企業誘致条例が存在し、千葉市が川鉄に対し地方税法第三四九条の四、第三四九条の五による固定資産税を賦課していないこと、被告が川鉄の大規模償却資産に対する固定資産税を賦課徴収していないこと、原告が千葉県住民であること、原告がその主張のとおり千葉県監査委員に対し監査の請求をし、右請求が却下されたこと、はいずれも認めるが、原告主張のその余の事実は否認する。

二 原告は、地方税法第三四九条の四の規定は道府県と市町村との固定資産税の配分を定めた原則規定であると主張しているが、これは配分を定めたものではなく、市町村が大規模償却資産に対して課する固定資産税の課税標準額に制限を加えた規定である。本来市町村は法第三四九条の二および第三四九条の三の定める課税標準額で課税することができるのであるが、本条はこの原則を規制して、第一項にいう大規模の償却資産に対しては、本条に定める課税標準額を限度として課税するものとしているのである。したがつて市町村は、本条に定める課税標準額以下の償却資産に対しては法第三四九条の二および第三四九条の三の課税標準額どおり課税できるし、本条に定める課税標準額をこえる償却資産に対しては、そのこえる部分について課税できないのである。しかしながら本条には、本来、市が課税すべき課税標準額をその限度まで課税しないとしても、そのこえる部分の課税標準額に対しては「県において課税する」という規定は何もない。ただ市町村で課することのできる課税標準の限度額を定めたにとどまるのである。県が固定資産税を課することのできるのは、法第七四〇条の規定によつているものであつて、決して本条の規定によるものではない。

次に法第三四九条の五の規定が法第三四九条の四の特例を定めたものであることには異論はないが、「大規模の償却資産の固定資産税の課税権は本源的に市または県のいずれかにある」としているのは誤りである。原則的には市および県の双方にあるが、市だけに課税権があつて県にはない場合がある。その反対の場合、すなわち県にあつて市にない場合は絶対にない。市は法第三四九条の四および第三四九条の五の範囲内の課税標準額で、いずれの償却資産に対しても課税できるが、県は法第七四〇条の規定で「償却資産の価額のうち第三四九条の四および第三四九条の五の規定によつて市が課することができる固定資産税の課税標準額をこえる部分の金額を課税標準として課する」とされているので、こえる部分のないものについては課することはできないのである。

また原告は、償却資産の課税標準額の一〇分の八について県が課税すべきものと主張するが、県の課税権は法第七四〇条の規定により「償却資産が所在する市町村が課することができる固定資産税の課税標準となるべき金額をこえる部分」について存するものとされているから、県で課する固定資産税の課税標準額は、川鉄償却資産の総額から千葉市が法第三四九条の四および第三四九条の五の規定により課することのできる課税標準額を差し引くことによつて算定されているものである。したがつて、川鉄償却資産の課税標準額が千葉市で課することのできる額以下であれば、県の課税すべきものはなく、その額をこえる場合についてのみ、こえた部分について課税できるのであつて、原告の主張のように県が一〇分の八課税できるということは法律上の根拠にもとづくものではない。

三 川鉄所有の償却資産の昭和三〇年度から昭和三三年度までの課税標準額は原告主張のとおりであるが(課税標準には法第三四九条の三に特則があり、川鉄償却資産はこの規定に該当するから、新たに固定資産税が課されることとなつた年度から三年度分の固定資産税に限り、右決定価格の二分の一の額が課税標準になる。)、右価額は各年度とも所在市町村である千葉市で課することのできる課税標準額以下であるから、全額千葉市において課すべきものであつて、県で課税すべき部分はないことになる。すなわち千葉市における基準財政収入額および基準財政需要額は、

収入額          需要額

昭和二九年度 二億五三四八万三〇〇〇円 二億五五八四万六〇〇〇円

昭和三〇年度 三億四八〇七万五〇〇〇円 三億二五〇六万九〇〇〇円

昭和三一年度 三億九八九五万二〇〇〇円 三億五五三六万六〇〇〇円

昭和三二年度 四億四五八〇万六〇〇〇円 四億二八九七万四〇〇〇円

であるから、地方税法第三四九条の四および第三四九条の五の規定を適用して(基準財政収入額算定についての基準税率は、地方交付税法第一四条第二項により、地方税法の標準税率の一〇〇分の七〇に相当する率となる)、千葉市において課税できる課税標準額を算定すると、

昭和三〇年度  八二億五二九四万九〇〇〇円

昭和三一年度  八四億四一五六万五〇〇〇円

昭和三二年度 二二三億一八八六万一〇〇〇円

昭和三三年度 二一四億〇〇六六万四〇〇〇円

となる(算定方法の詳細は別紙第二のとおりである。)のであり、いずれも地方税法第四一一条により決定され固定資産価格(原告が五において主張した額)を超過する。

第三証拠関係〈省略〉

理由

本件訴の要旨は、普通地方公共団体千葉県の長である被告が、訴外川崎製鉄株式会社に対し地方税法第七四〇条、第七四一条にもとづいて課すべき固定資産税を昭和三〇年度から昭和三三年度まで賦課徴収しないことが地方自治法第二四三条の二第一項所定の「財産の違法処分」にあたるから、同条第四項にもとづき当該行為の禁止に関する裁判を求める、というにある。

よつて普通地方公共団体の役職員が地方税法所定の租税を賦課徴収しないことが地方自治法第二四三条の二第一項所定の「財産の違法処分」にあたるか否かについて考察するに、本条にもとづく訴訟は権利救済のための争訟ではなく、選挙訴訟とならんで民衆訴訟たる性格を有し、住民参政の政治上の一手段として認められた特別の訴訟であるところ、この訴訟の認められた所以のものは、本来住民の負担にかかる公租公課によつて造成された地方公共団体の公金、営造物その他の財産を、地方公共団体の役職員が法令の規定に違反し又は私的な利益を図る目的で管理処分するときは、結局住民全体に転嫁されるような損害が発生するから、地方公共団体の経費負担者であり、かつ受益者である住民自身のイニシアテイブにおいて、その利益の擁譲と自治政に関連する腐敗行為の予防ないし是正を図る必要があることに存する。したがつて地方自治法第二四三条の二の規定の本来の意義は、地方公共団体の収入となつた公金またはこれが形を変えた財産の行方を一種の信託受益者としての住民が追求せんとすることにあるというべきである。すなわち本条にいう「財産の違法な処分」における「財産」とは、同条に同じく「当該行為の制限又は禁止に関する措置を講ずべきこと」の対象となる事項として、「公金の違法な支出もしくは浪費」、「特定の目的のために準備した公金の目的外の支出」、「財産又は営造物の違法な使用」等が併記されていることに照らし、公金以外の具体的財産を指すと解される。

ところで租税については、権力関係にもとづく行政行為としての賦課処分がおこなわれることによつて、はじめて具体的確定的な租税債権債務関係が発生するものであり、それ以前において単に課税要件の充足を見たのみでは具体的な租税関係は確定したものとはいえないのであるから、このような抽象的な権利関係は、前記住民訴訟の認められた目的に鑑み、未だ地方自治法第二四三条の二第一項所定の「財産」に該当しないものといわなければならない。

更にまた原告は被告が川鉄に対し固定資産税の賦課処分をしていないことを「固定資産税の請求権の放棄」であるとして、当該行為(不作為)の禁止を求めるという形で本訴に及んでいるものであるが、実質上は被告に対し租税の賦課処分という積極的行政行為(作為)をなすべき旨の命令を求めることに帰着するところ、本条にもとづき違法行為を制限、禁止するために裁判所が命じ得る措置としては、まさになされようとしているその行為それ自体の全部又は一部の差止、停止等一定の不作為を命ずることに限られ、この限度をこえて一定の具体的な行政措置をとるべきことを内容とする積極的な作為を命ずることはできないのである。

以上いずれの理由よりするも原告の本訴は不適法であり、これを許すべからざるものである。よつて本訴は却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 内田初太郎 田中恒朗 遠藤誠)

答弁書(第四回)

原告 鈴木宣三

被告 千葉県知事 柴田等

さきに答弁書を提出した右当事者間の昭和三十三年(行)第十二号県有財産不当処分禁止事件につき、被告は次のように答弁を補足する。

請求の原因に対する答弁事実

原告は、本訴の提起を地方自治法(以下「法」という。)第二百四十三条の二の規定によつているが、粗税債権債務関係は、当該法条に規定する財産に該当せず、従つて本訴の提起は不適法であるので、このことについて次のように補足答弁書を提出する。

訴状請求原因記載の事実中

一、原告は、「租税は公法上の請求権であり、又実際の税務署等の取扱も税金を債権として取扱つている。……中略………然らば租税は財産権であることは疑の余地なき事柄である。」と主張しているが、賦課徴収権が財産権であるか否かは、地方自治法第二百四十三条の二の規定の適用をめぐつて何等実益のある議論ではない。焦点は賦課徴収権が同法条に規定する。「財産」であるか否かにつきるのである。この点についての当該法条の解釈は後述するが、先ず法第二百四十三条の二の規定、即ち違法支出等の監査請求及び納税者訴訟制度自体から論ずることにする。

二、いわゆる納税者訴訟制度は、昭和二十三年法律第百七十九号による地方自治法の一部を改正する法律により新設されたもので、英米法の納税者訴訟(Tax payer'

元来納税者訴訟制度は、英米法において地方団体及びその官吏が権限踰越(ultra vires)又は無権限の行為を行つた場合に、住民たる納税者の請求により、衡平裁判所が地方団体又は地方団体の住民を擁護する為に与える衡平救済(equitable relief)の一つとして発達して来たものである。特にアメリカでは、連邦最高裁判所のフイールド判事がCrampton v Zabriskie事件において、「カウンテイー」の住民が他の財産所有者としても、別の方法で支払う事を命ぜられるようなカウンテイーの金銭の違法な処分又は違法な起債を阻止する為衡平裁判所に関与を求める住民たる納税者の権利に関しては、今日(注一八七九年)では何等重大な疑問はない。」と判示して以来、殆んど全ての州で広く認められることになつた。特にこの為の要件手続等を、制定法で定めている州もあるしそうでなく衡平法の一般原則に従つて運用している州もある。

ところでこの納税者訴訟制度の背後には「信託法」の考え方が前提とされている。即ち地方公共団体の公金や財産は、当該団体の一般住民が納付した租税、その他公の負担によつて形成されたものであり、本質上住民が受託者(trustee)たる地方団余に信託したものである。従つて受託者の側で、その信託に違反するような行為―例えば公金や財産の違法不当な支出又は処分等―を行つた場合には、その行為は信託違反(breack of trust)となり、信託受益者(certuis que trust)たる住民は、地方団体及び全住民の利益を擁護する為、信託に関する衡平法の一般原則に従つて、衡平裁判所に対し、当該信託違反行為の防止又は矯正を請求し得るとする。

法第二百四十三条の二の規定の提案に当り、国会地方制度委員会における苫米地国務大臣の提案理由説明によると、「出納長もしくは収入役その他地方公共団体の職員の職務上の地位の濫用による公金又は財産・営造物の違法又は不当な処理についての住民による矯正権の制度を法定致し、これによつて住民の信託に基く地方公共団体の公共の利益の擁護に違算なからんことを期した次第であります。」(昭和二十三年四月二十七日改正地方制度資料第五部十八頁)とあるように、この規定の立案者も英米法の納税者訴訟制度の考え方をそのまま移入したのがうかがわれるのである。唯この規定は、他の行政救済との関係を何等考慮することなく、英米法のしかもコモン・ロウとは体系を異にする衡平法上の制度を、大陸的行政法体系の中に持込んだ為この制度は解釈上、運用上多大の疑点を包合していることは否定出来ないが、立法者の頭には、英米法の納税者訴訟制度が全くそのままの状態で映じていたことは疑いないところである。

英米法の納税者訴訟制度は、信託受益者たる納税者の権利を擁護するものであるから、提訴権者は納税義務を有するもの(州によつては一定納税額を要件とするものも多い。)に限られているが、我が国の現行制度は、普通地方公共団体の住民であればよく、納税義務者であること又は一定額以上の納税者であることを要件にしていないから、法第二百四十三条の二の規定をもつて、納税者訴訟制度と呼ぶことは適当でない。英米法の制度を模倣しながら、提訴権者の範囲を何故に普通地方公共団体の住民にまで拡張したかについては、これを明確に窮知する資料にとぼしいが、我が国の制度の方が住民の信託に基く地方公共団体の利益の擁護に一層の実を挙げ得るものと思料したに他ならないものと解される。納税者訴訟制度は我が国ではむしろ権利救済の為の争訟手段というよりも住民参政の一手段としての色彩がより濃厚なように思慮せられる。即ち、地方公共団体の公金、営造物、財産等は、本来住民の負担にかかわる公租公課によつて形成されたものであり、地方公共団体及びその機関が住民の信託をうけて住民全体の利益の為に管理処分すべき性質のものであるから、これらの支出管理等が公正に行われているかどうかは、その経費負担者であり、受益者である住民の重大関心事でなければならない。ところで地方公共団体の役職員が法令の規定に違反し又は私的利益を図る目的で、本来の任務に背いて違法不当にそれらを管理処分するようなことがあるとすれば、実質上被害を蒙むるのは、当該地方公共団体の住民以外の何物でもあり得ないからそのような行為がなされるおそれがあり、又既になされたような場合には、住民自身のイニシアテイブにより、当該行為を防止、匡正する措置を講ずるようにすることが憲法の精神である住民自治の原則に添うゆえんである(行政裁判資料第四号)からである。これによつてみるように、法第二百四十三条の二の規定が本来持つている意義は、地方税にせよ、分担金にせよ、夫役現品にせよ、使用料にせよ、受託者たる地方公共団体の収入となつた公金又はこれが形を変えた財産の行方を信託受益者としての住民が追求せんとするものであり、課税要件の充足をみたものの、申告書の提出(申告納税制度をとるもの)又は賦課処分(賦課課税制度をとるもの)が行われない以上は、租税債権債務関係は確定したものと言えず、単にかような抽象的な権利関係をもつて法第二百四十三条の二の対象となすことを得ないことは明瞭である。たとえ租税債権債務関係が確定していたところで、それだけでは第二百四十三条の二の規定の適用を見るものでなく、それが地方公共団体に収納されて、現金若しくは有価証券又は財産の形で存在するときそれらの管理、処分行為に違法又は不当があつた場合に始めて適用をみる規定なのである。

この点については、該規定の母法である英米法の納税者訴訟制度がどのような場合に作用するかを考察することが問題の核心を明りようならしめるものである。

アメリカでは納税者訴訟は制定法に特別の規定ある場合を除き、一般に衡平法上の救済手段であることは先に述べたが、地方団体又はその官吏が納税者を侵害するような公金の違法な支出、財産違法不当処分等の権限踰越行為や法律上の義務違反行為を行い、又は行おうとする場合、納税者は制定法に出訴を許す規定がなくても、一人又は数人で当該団体に居住する全納税者の資格をもつて、衡平裁判所に対し、これらの行為を差止める請求をなす権利がある。かかる権利は多くの州で判例法上認められており、連邦最高裁判所でも確認されていることは先に触れた。

制定法(註1)及び判例法上で認められている納税者訴訟制度の型は次の三つに分類される。

一、地方団体の特定の行為(…作為…)を禁止する訴訟

二、地方団体の不誠実な官吏又は第三者に対して違法に支出された金銭を、地方団体の出納部に償還するように命ずる訴訟

三、地方団体が主張すべき訴因(cause of action)を有しながら、その官吏が不法にこの訴因を主張する義務を否定又は懈怠した場合に、住民が地方団体の資格で、官吏に代つてこれを主張する訴訟。

その救済の範囲は、我が国のそれに比べるとはるかに広い。又判決にしても、差止命令(injunction)の判決を求める訴訟が最も多いが、その他相当の事情の下では、地方団体又はその官吏の行為や契約を取消し、破棄し、無効とし、又は執行する為に職務執行令状(mandamus)移送命令(certiorari)宣言的救済(declaratory relief)を求めることが出来、例外的に特定履行(specific performance)の判決を請求し得る。イギリスでは、一八三五年地方団体法(Muniupal Corporation Act)により、参事会に附与された団体公金及び団体財産に関する権限は公益信託であり、団体が保有している財産は法律によつて明示又は授権された目的の為該団体が信託の形で保有しているものであるとされている。

英米法の納税者訴訟制度は、「団体の資産(Corporation fund)はそれがいかにして取得されたものであるにせよ、信託資産(trust fund)であつて、法の規定に合した目的の為にのみ用いられるべきものであること、及び受託者は衡平法上信託違反を犯したことを差止められうること、」(Attorney General v oPole 4 Myl & Cr17 コツテンハム判事の判示)にある。

即ち納税者訴訟の対象となる公金及び財産は、信託受益者たる住民と受託者たる地方公共団体間で明示であると黙示であると信託の関係が設定されたものに限定される訳である。しかして租税の賦課徴収権の如きは、地方公共団体とその住民との信託関係(註2)にあるものではない。従つて納税者訴訟の対象とはなり得ない(註3)ものである。

法第二百四十三条の二の規定は、英米法の納税者訴訟制度を継受したものであり、しかも極めて制限された態様のもとに継受したものである以上、英米法でも認めないような救済を現行法に基いて拡張して解釈する根拠に乏しいと言わなければならない。

三、次に法第二百四十三条の二の解釈について言及する。

ここに規定する「財産」は、地方公共団体の保有にかかる一切の動産、不動産、無体財産権(現金及び有価証券は「公金」にふくまれるから、ここに言う財産には該当しない。)を指し、公共用財産、公用財産などの普通財産たると、収益財産、基本財産などの普通財産たるとを問わない。従つて全ての財産上の権利乃至は財産権を指すものでなく、動産不動産の如き有体物に対する物権及び債権並びに著作権及び工業所有権(特許権、実用新案権、商標権、意匠権)の如き無体財産権に限られるものであつて、賦課徴収権の如きを包合するものではない。(昭和三四、一、一〇自治庁行政課長回答(註4)、同旨昭和二五、一〇、二同課長回答(註5))

次に「処分」とは、売却、交換、贈与などのように、財産上権利乃至財産権を移転し、又はそれになんらかの法律上の変動を与えることのほか、消費、破棄のように財産の現状、性質などに事実上の変動を与えることもふくむ。従つて課税要件の充足をみ租税債権債務関係が潜在的に発生したからといつて賦課徴収権を行使しないことは、「財産の処分」ということに該当しいことは極めて明りようである。

四、以上考察して来たように、法第二百四十三条の二第四項の規定に基く原告の本訴の提起は、該規定の沿革に照しても又その解釈によつても適法なものと言えず、被告は棄却を要求するものである(註6)。

五、原告の訴状中請求の原因に関して論じたい。原告の主張中「租税は公法上の請求権」であることは、近時の学説の発展に照して承認し得る。「又実際の税務署等の取あつかいも税金を債権として取あつかつている。」とあるが、取あつかい上の債権でなく、債権それ自体であることは、請求権たる以上当然の帰結である。「例えば債権者代位として滞納者の不動産を代位登記するが如きがこの一例である。」とあるが、債権者代位が行われるのは、あくまで賦課処分たる行政行為が行われた後の確定した賦課徴収権に基くものであつて、抽象的に発生したに過ぎない未確定の権利に基いて、債権者代位権の行使がゆるされるものでない。

厳密に論ずると「租税は請求権である。」と単純に割切つてしまうことに問題がある。具体的に賦課なり申告なりが行われたものについては、請求権たることに疑を容れないがそれ以前の段階では、むしろ形成権と考えることが出来ないであろうか。租税債権債務関係が抽象的なものから具体的なものに固まるにつれ形成権から請求権へ転化すると言えないであろうか。唯訴状によれば請求権なることが必然的に財産権であるように帰結しているがこれは正しくない。請求権は財産を目的としたものに限らず身分権に於ける請求権もあり得るからである。

しかも単に債権であると言う理由だけで、直ちに法第二百四十三条の二の規定を、正当に解釈した千葉県監査委員の決定を「前記決定は法観念の誤解から出でたるものであると言わねばならない」と決めつけることは、論理の飛躍と云わなければならない。「財産権」と「財産」とは同義語でない。成程財産なきところに「財産権」は発生し得ず、その意味では両者は極めて密接な関係にあることを否定出来ないが、同一概念をもつて論じることが出来ない。法第二百四十三条の二の規定が問題としているのは「財産」であるか否かで「財産権」であるか否かではない。又「財産」なる概念自体にしても各法案(例えば法第九十六条、第二百十三条、第二百四十三条の二)に照して決定されねばならない。従つて「租税」即「財産権」即「法第二百四十三条の二の財産」との論理構成を取つた原告の訴状における主張は誤りである。

注(1) 「カンサス州」では一租税と負担金。分担金の違法な賦課執行の手続。二公務員、委員会又は団体が行う公の負担の新設若しくは違法な租税・負担金・分担金等の賦課を招来するような法律上の授権なき契約の締結。

「マサチユセツツ州」では、町が課税又は債権を担保することによつて金銭を調達することを議決し、又は法律によつて定められた権利若しくは権限以外の目的をもつて出納部より金銭を支払うべきことの議決。

「オクラホマ州」では、違法若しくは詐欺による金銭の支払又は公有財産の譲渡。

「サウスダコタ州」では、地方団体内に居住する納税者は差止命令、禁止命令、移送命令又はその他適切な救済手段により、この制定法の本条の規定(地方団体の職権行使のあらゆる事項を定めた規定に違反する行為の阻止。

「オハイオ州」では、(一)地方団体の公金の不法支出。(二)団体権の濫用。(三)地方団体の資格で結ばれた契約で法律若しくは条例に違反し、又は詐欺、涜職により得られたものの執行若しくは履行。

「ニユーヨーク」では、課税額が千ドルに達する個人若しくは法人、又は課税額の合計が千ドルに達する数人のもの若しくは数箇の法人であつて、カウンテイ、タウン、又は地方団体においてかかる課税に基いて納税の義務を免るべきものは、それらのものの所有にかかる財産の浪費又は侵害を阻止するため訴訟を行うことが出来る。右に掲げるものであつて訴訟開始の一年前以内に当該団体の区域内において税を賦課され、且つ千ドルに達する課税に基いて納税をなしたものは官吏、代理人、委員その他カウンテイタウン、ビレツジ若しくは地方団体の資格で行為するすべてのものを相手として、違法な職務上の行為の阻止又は当該地方団体の財産公金若しくは不動産の浪費若しくは侵害の阻止、回復、善良なる管理を求める訴をなし得る。

注(2) 信託の意義については(一)財産を中心とする法律関係であること。(二)受託者が財産権の名義者となること。(三)受託者に財産の管理処分の権限が与えられること。(四)受託者の管理処分の権限は排地的であること。(五)受託者の権限は自己の利益の為に与えられたものでなく、それを他人の為に行使されねばならないこと。(六)法律行為によつて設定されたこと。(四宮和夫著「信託法」三頁)

注(3) 公有財産の不法な使用、処分等に関する行為についてのアメリカの判例の傾向を概観すると、多数判例の判示するところによれば、納税者は地方公共団体の所有又は占有に属する建物、公有地道路、公園、放送局、市場等の財産の違法又は不法な使用、本来の目的外への転用、譲渡、賃貸借等の処分行為等を禁止出来るとする。この型の訴訟は納税者訴訟の一般原則に従つて具体的、個別的権利侵害を必要としないが何等かの金銭的侵害を蒙つていなければならない。しかし納税者訴訟は、個人の不安や危惧を軽減し救済することを目的とするものでないから、市の公務員が市財産を公園施設に使用することによつて条例に違反する結果になるであろうという危惧を、請求者が有しているとしても、かかる単なる事実は差止命令を正当化する根拠とはならない。公有財産の使用、処分等が多少なりとも当局者の自由裁量に委ねられている場合、詐欺若しくは裁量権の明白な濫用が伴わない限り差止命令が発せられない。

注(4)問 法律又は条例に基いてなされる地方公共団体の地方税の賦課徴収権は、地方公共団体の財産上の権利であると考えられるも、これら金銭的価値のある権利からなる財産権は地方自治法上の財産、就中第二百四十三条の二の規定に言う財産にはふくまれないものと解して差支えなきや御見解の程をお示し願いたい。

答 地方税の賦課徴収権については、第二百四十三条の二の規定の適用がないものと解する。(昭和三四、一、一〇自丁行発第二号千葉県監査委員宛 行政課長回答)

注(5)問 第二百四十三条の二第一項の規定に基く請求として、次の様な事項を指摘してその制限又は禁止の措置を請求したものであつた場合においても、このような事項は、本条本項による請求の対象とはならないものと解するがどうか。

徴収すべき地方税の徴収を怠つている事実

答 お見込の通りと解される。(昭和二五、一〇、二、自行発第二四一号、兵庫県監査委員宛 行政課長)

注(6) 徴収すべき地方税の徴収を怠つている事実……(中略)……は監査委員が監査の結果に基いて長に注意を喚起すれば足りる場合も多いと考えるが、監査委員は長に対して制限又は禁止の為の必要な措置について指示することは出来ないと解する。(長野士郎著「逐条地方自治法」七八〇頁)

1 昭和三十年度の場合

本年度分については、昭和二十九年法律第九十五号地方税法の一部を改正する法律第三百四十九条の三(昭和二十九年法律第一〇一号で一部改正)、同法附則三十一及び同法附則三十二を適用して千葉市において課税できる課税標準額を算定する。

(算式)

乙第三号証(昭和二十九年十一月十日付、自乙府発第二二七号自治庁次長通達、各都道府県知事あて)の算式による。

{B-(C-D+A)}×100/1.4×100/70

符合の説明 A…{法第三百四十九条の三第一項に掲げる表によつて算出した千葉市の課することができる限度額}×1.4/100×70/100

B…(昭和29年度の千葉市の基準財政需要額)×130/100

C…昭和29年度の千葉市の基準財政収入額

D…{昭和29年度の千葉市の基準財政収入額の算定の基礎に用いた川鉄所有の償却資産の課税標準額}×1.5/100×70/100

符合に実際の金額をあてはめると

A…4,155,056千円×2/10×1.4/100×70/100= 8,144千円

B……255,846千円×130/100        =332,599千円

C……………………………………………………… 253,483千円

D……167,900千円×1.5/100×70/100    = 1,763千円

算式に上記の金額をあてはめる

{332,599千円-(253,483千円-1,763千円+8,144千円)}×100/1.4×100/70=7,421,938千円

7,421,938千円+831,011千円=8,252,949千円

2 昭和三十一年度の場合

本年度分についても昭和三十年度分と同様昭和二十九年法律第九十五号地方税法の一部を改正する法律(昭和二十九年法律第一〇一号一部改正)を適用して千葉市において課税できる課税標準額を算定する。但し三十年度の場合のように同法附則の適用はない。算定方式も三十年度分と同じ根拠に基くものである。

算式 {B-(C-D+A)}×100/1.4×100/70

符合の説明はB、C及びDについて29年度が30年度にかわるほか30年度と同様である。

符合に実際の金額をあてはめると

A……5,009,360千円×2/10×1.4/100×70/100= 9,818千円

B…… 325,069千円×12/100         =390,082千円

C………………………………………………………… 348,075千円

D……4,155,103千円×1.4/100×70/100    =40,720千円

算式に上記の金額をあてはめると

{390,082千円-(348,075千円-40,720千円+9,818千円)}×100/1.4×100/70=7,439,693千円

7,439,693千円+1,001,872千円=8,441,565千円

3 昭和三十二年度の場合

昭和三十二年法律第六〇号地方税法の一部を改正する法律が施行され三十二年度分から適用されることとなつた。改正の概要は、第三百四十九条の五で新設の大規模償却資産について課税標準の特例の規定が新たに設けられたこと及び改正前の法律の第三百四十九条の三が三百四十九条の四と繰下げられるとともに条文の内容についても改正が行われたことである。川鉄所有の償却資産は、昭和三十二年法律第六十号地方税法の一部を改正する法律附則第二十一条の規定により昭和二十九年度を第一適用年度、すなわち三十二年度を第四適用年度とする新設大規模償却資産に該当し、法第三百四十九条の五の適用をうけることとなる。

千葉市において課税できる課税標準額の計算方式は、川鉄の償却資産が千葉市に所在する大規模の償却資産としては唯一のものであるから、法第三百四十九条の五第四項の規定の適用はなく(三十三年度において東京電力(株)所有の償却資産が新たに加わるので適用をうける。)三十一年度と同じ方式で計算される。

算式{B-(C-D+A)}×100/1.4×100/70

符合の説明は、B、C及びDについて29年度が30年度にかわるほか31年度と同様である。

符合に実際の金額をあてはめると

A……5,609,105千円×2/10×1.4/100×70/100=10,993千円

B…… 355,365千円×160/100        =568,584千円

C…………………………………………………………398,952千円

D……5,009,388千円×1.4/100×70/100    =49,092千円

算式に上記の金額をあてはめると

{568,584千円-(398,952千円-49,092千円+10,993千円)}×100/1.4×100/70=21,197,040千円

21,197,040千円+1,121,821千円=22,318,861千円

4 昭和三十三年度の場合

本年度は、川鉄償却資産が新設第五適用年度資産(第三次資産)となり、新たに東京電力千葉火力発電所償却資産が新設第一適用年度資産(第一次資産)となつて、千葉市には二つの新設大規模償却資産が所在することとなつた。従つて、千葉市で課税できる課税標準額の算定については、法第三百四十九条の五第四項の適用をうけ、法施行規則(昭和二十九年五月十三日総理府令二十三号)第十五条の二第一項第二号に定める算式によることになる。

算式 (イ)〔基準財政需要額×140/100{基準財政収入額-大規模資産の税収入見込額+(大規模資産の課税定額×大規模資産の個数)×1.4/100×70/100}〕×100/70×100/1.4

千葉市の昭和32年度の基準財政需要額…………………………… 428,974千円

千葉市の昭和32年度の基準財政収入額…………………………… 445,806千円

大規模資産の税収入見込額…………………………………………  54,969千円

大規模資産の課税定額×大規模資産の個数………………………1,958,113千円

(川鉄と東電の課税定額が異るので個数は乗ぜずに加算する。)

川鉄分課税定額 5,940,294千円×2/10=1,188,058千円

東電分課税定額 3,850,276千円×2/10=770,055千円)

上記金額を算式にあてはめる。

(イ)〔428,974千円×140/100-{445,806千円-54,969千円+(1,958,113千円)×1.4/100×70/100}〕×100/70×100/1.4=19,442,551千円

19,442,551千円+1,958,113千円=21,400,664千円

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